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2018公認心理士試験の司法領域,法律系問題解説

約 10 分

公認心理師試験を受験した皆様,本当にお疲れさまでした。

結構難しかったという声が私のまわりでは聞こえてきています。自分の専門領域である司法のあたりも,結構難しい問題が出たんじゃないかなあ,という印象でした。保護観察や少年院のことをきくのはいいとしても,これは細かすぎるんじゃないかな,と解きながら思っていました。でも,辰巳の肢別回答率表を見てると,それなりに正答率高いのですよね…

さて,復習のためにも,司法領域の法律問題の解説を書いてみました。解答速報は出ていますが,まだ解説は出てないと思いますので,少しだけではありますが,ご参考にどうぞ。

問53 裁判員裁判について,正しいものを2つ選べ。

1 原則として,裁判官3人と国民から選ばれた裁判員6人の計9人で行われる。
2 被告人が犯罪事実を認めている事件に限り審理し,量刑のみを判決で決める。
3 裁判員は判決前には評議の状況を外部に漏らしてはいけないが,判決以降は禁止されていない。
4 職業裁判官と裁判員が評議を尽くしても全員の意見が一致しない場合,多数決の方式を採用して評決する。
5 地方裁判所の裁判員裁判の決定に不服があって高等裁判所で審理をされる場合も裁判員裁判をしなければならない。

1 ○
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条2項。原則として裁判官3人,裁判官6人。一定の要件を満たす場合は裁判官1人,裁判員4人の場合もあります(同条3項,4項)。だから「原則として」と問題文にあるのですが,例外までは覚えてなくていいんじゃないでしょうか。
2 ×
量刑のみではありません。被告人が犯罪事実を争っている事件の審理も担当し,事実の認定,法例の適用,刑の量定もやります(6条1項)。要するに,被告人がその事件をやったのかどうかと,やったとした場合に刑をどれだけにするのかの両方を決めます。
3 ×
9条2項。評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。これは判決以後も負う義務です。
4 ○
67条。職業裁判官と裁判員が評議を尽くしても全員の意見が一致しない場合,多数決で決めます。さらに詳しいルールがあるので,興味のある方は67条1項と2項を読み解いてみてください。わりと面白いパズルです。
5 ×
高等裁判所で行われる控訴審では,裁判員裁判ではなくて,裁判官3人で裁判が行われます。地方裁判所の第一審で裁判員裁判で決まった判決を,裁判官だけでやる控訴審が変えてしまうことが正しいのだろうか,なんてことが議論されたりもしています。

裁判員裁判についてのごく基本知識が問われています。
この問題は正解率が高かったのではないでしょうか。
——

問56 保護観察制度について、正しいものを2つ選べ。

1 保護観察の特別遵守事項は変更されることがある。
2 刑事施設からの仮釈放の許可は保護観察所長の決定による。
3 保護観察処分に付された少年は少年院送致になることはない。
4 保護観察中に転居する場合、同一都道府県内であれば保護観察所長に届け出る必要はない。
5 少年院仮退院者の保護観察を継続する必要がなくなった場合、地方更生保護委員会が退院を検討する。

1 ○
特別遵守事項は変更されることがあります。
2 ×
決定するのは保護観察所長ではなくて,地方更生保護委員会です。保護観察所は,仮釈放の後の保護観察段階で釈放された人に関わります。
3 ×
遵守事項違反の内容によっては,虞犯通告されることがあります。また,保護観察所長が遵守事項を守るように警告ができます(更生保護法67条1項)。それでも守らずその程度が重いときは,保護観察所長が家庭裁判所に施設送致申請をすることができます(更生保護法67条2項)。
4 ×
更生保護法50条5号。転居又は七日以上の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長の許可を受けること,とされています。県内でも届け出必要です。県内でも,保護観察所が別のところに行くかもしれないし,担当保護司さんが替わらないといけない場合もありますから。
5 ○
更生保護法74条。条文は,「地方委員会は、少年院仮退院者について、保護観察所の長の申出があった場合において、保護観察を継続する必要がなくなったと認めるとき…は、決定をもって、退院を許さなければならない。」とされていて,許さなければならないので,「検討する」という態度でいいのかというのは微妙なのですが,まあ,他との比較からするとこの選択肢が○でいいんでしょうね。

結構細かい知識です。特別遵守事項ってなに…?仮退院と退院ってなんだよ?という感じだったかもしれませんね。
苦戦した方も多かったかもしれません。もう少し基本的な知識をきいた方がいいんじゃないかと思うのですが。

——

問99 少年事件の処理手続として,正しいものを1つ選べ。

1 14歳未満の触法少年であっても重大事件である場合は検察官送致となることがある。
2 14歳以上で16歳未満の犯罪少年は検察官送致とならない。
3 16歳以上で故意に人を死亡させた事件の場合は,原則的に検察官送致となる。
4 18歳未満の犯罪少年であっても重大事件を犯せば死刑になることがある。
5 事案が軽微で少年法の適用が望ましい事件の場合は,20歳を超えても家庭裁判所で不処分を決定することができる。

1 ×
刑法41条で「14歳に満たない者の行為は、罰しない。」とされています。14歳未満の少年がした行為は刑法上の犯罪ではないから刑事裁判になることはありません。検察官送致にするというのは,刑事裁判を受けさせて刑罰を科するというものですから,犯罪じゃない行為を検察官送致することはありえないのです。
2 ×
14歳以上であれば検察官送致されることがありえます(少年法20条1項)。
3 ○
一応○です。少年法20条2項。実務をベースにするなら確かに○でしょう。
(以下は,公認心理師の勉強には関係ありません)でも,こう考えていいのかについては,本当は激しい争いがあったのです。2000年に改正された条文なのですが,そもそも導入すべきかどうかが激しく争われましたし,改正後も,これを原則検察官送致の内容ではないという解釈をするための学説が主張されました。その趣旨は,厳罰化に流されようとする少年法の理念をなんとかして守ろうとするものでした。これを正解の選択肢に持ってくるのはなんだかなあ,ちょっと少年法への愛が少ないんじゃないの,と文句を言いたくなりますね。
4 ×
少年法51条。「罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。」ということで,18歳未満に限り,大人だったら死刑にすべきような犯罪のときは,無期刑に減刑することになっています。「科することができる。」だったら死刑もあり得るのですが,「科する。」と言い切ってるので,例外はないということです。
5 ×
そんな謎の制度はありません。
(以下は,公認心理師の勉強には関係ありません)ちなみに,現在,法制審議会で少年法の年齢引き下げと刑罰制度改革が議論されています。方向性がどこ向いてんだかよくわからない議論なのですが,その紆余曲折ぶりからすると,こんな制度が将来的にはできてたりするかもしれないです。

——

問106 我が国の少年院制度について,正しいものを1つ選べ。

1 少年院に受刑者を収容することはできない。
2 14歳未満の者でも少年院に送致されることがある。
3 1つの少年院に2年を超えて在院することはできない。
4 少年院は20歳を超える前に少年を出院させなければならない。
5 少年院法で定められた少年院の種類のうち,第2種は女子少年を収容する施設である。

1 ×
少年法56条3項。「16歳に達するまでの間、少年院において、その刑を執行することができる。」とされています。理論的には14歳で懲役刑を科されることもありえます。懲役刑は刑務所で執行されます。しかし,さすがに中学2年生を刑務所に送るわけにはいかないよなとか,義務教育しなきゃならないから刑務所だと不都合があるよなということで,仮に14歳で懲役刑を受けたとしても,16歳になるまでは少年院で矯正教育をしてもいいよということになっています。ちなみに,現在まで,この制度で少年院で受刑した少年はいません。
2 ○
少年法24条1項但書。もとは14歳にならないと少年院に送れなかったのですが,2007年改正で14歳未満でも少年院に送ることが可能になりました。当時,佐世保,長崎で小学生による殺人事件が発生し,児童自立支援施設送致になったのですが,小学生による殺人事件が起きたときに少年院送致ができないといけないんじゃないかという議論が起こってこういう改正につながったのです。
3 ×
こういう制限はありません。例えば,神戸児童殺傷事件の少年は関東医療少年院に長くいましたね。
4 ×
少年法の少年は20歳未満だから,これが正解じゃないかと悩んだ人もいたと思います。
送致するときは20歳未満じゃないといけないのですが,出るときに20歳を超えている少年は結構多いのです。そもそも少年院法で定められている第一種少年院は,「第一種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がないおおむね十二歳以上二十三歳未満のもの」(少年院法4条)とされています。
5 ×
第2種少年院は,「保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね十六歳以上二十三歳未満のもの」で,もとの特別少年院と呼ばれていた施設です。

正解以外の肢も,たぶん見当はつかないと思うので,2を知識として知っていないと正解しにくい問題かもしれません。

——

問119 重大な加害行為を行った者の精神状態に関する鑑定(いわゆる精神鑑定)について,正しいものを1つ選べ。

1 裁判所が鑑定の結果と異なる判決を下すことは違法とされている。
2 被告人が心神耗弱であると裁判所が判断した場合,罪を軽減しなければならない。
3 被告人が心神喪失であると裁判所が判断しても,他の事情を考慮した上で必ずしも無罪にする必要はない。
4 心神喪失者として刑を免れた対象者が,後に医療観察法に基づく鑑定を受けた場合,鑑定結果によっては先の判決が変更されることがある。
(注:「医療観察法」とは,「心神喪失等の状態で重大な加害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」である。)

1 ×
違法ではありません。判例では,心神喪失や心神耗弱にあたるかどうかは法律判断だから,裁判所の専権に委ねられているので,鑑定と違う結論を認定することもできるとしています。ただ,裁判所は,精神医学のことも心理のこともろくに知らないくせに,法律のことしかわからないくせに,自分の常識とか経験則とやらで,専門家の判断に従わなくてもかまわないのだと簡単に言うのですよね。その姿勢は批判を受けてるところでもあります。
2 ○
刑法39条2項。「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」となっています。「減刑することができる。」だったらしなくてもいいのですが,「減刑する。」なので,必ず減刑しなければなりません。
3 ×
刑法39条1項。「心神喪失者の行為は、罰しない。」なので,おなじく,必ず無罪にしなければなりません。もし条文が「罰しないことができる。」とされていたとしたら,裁判員裁判では,心神喪失でも有罪にしようという裁判員がたくさん出てきそうですね。
4 ×
刑事裁判と,後の医療観察法に基づく審判は全く別の手続です。なお,刑事裁判で行われる精神鑑定は責任能力があるかないかを見るものですが,医療観察法の鑑定は「精神障害者であるか否か及び対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があるか否か」(医療観察法37条)を見るものなので,鑑定内容も異なります。

鑑定の話は難しかったと思いますが,39条を覚えてれば正解はできたという問題です。うーん,この知識,公認心理師に必要かなあ…と思わなくもないです。

感想(特に少年法について)

一応,少年法をそれなりの専門領域としてきたつもりの私から見て,今回の公認心理師試験における少年法の出題内容は,結構細かい知識が問われたな,という印象です。知っておいて無駄ではないのですが,公認心理師試験で全領域の人が持っておく知識として要求するレベルかと言われると…

試験における出題内容は,今後,公認心理師を目指して勉強する人たちに要求される勉強内容の指針になるものだと思います。

その視点でみると,正解するのに全部の知識が必要とされてるわけではないのですが,過去問に肢として出てきた以上,今後は,特別遵守事項は途中で変更できるかとかいうような細かい知識を勉強しないといけないのかと思わせてしまいます。

もっと,少年法の理念を聞くような問題とかがいいのではないでしょうか。例えば,全件送致主義や科学主義を真正面から問うとか。今回きかれたような20条2項対象事件も大切ですが,窃盗や傷害などの軽微なケースとか,虐待を背景にした軽微な事件とか,そういったケースこそ,公認心理師が様々な領域で(例えばスクールカウンセラーとか)関わる可能性がありますし。来年度以降は,より基本的な方向にいくことが望ましいのではないかなあ,と思います。